こんにちは、トロボです。
今回は材料についてのお話です。
ロボットではアルミ合金や鋼が使われることが多いと思いますが、ここではチタン合金について説明します。
チタン合金は文字通り、チタンを主成分とする合金です。チタンは鉄とアルミのちょうど間程度の比重で、金属の中でもトップクラスの非強度を持っています。さらに表面に酸化皮膜を作るため耐食性が良く、また熱にも強いという性質も持っています。
これらの特徴より、チタン合金は航空・宇宙機体をはじめ、スポーツ用品やメガネなど様々な分野で使用されています。特に航空機分野では、機体やエンジン部に多く用いられています。
そこで今回は、様々な種類のチタン合金とその性質について説明します。
純チタンの結晶構造は、低温域では六方最密構造(α相)ですが、882℃以上で体心立方構造(β相)になります。チタンにβ相安定化元素を加えていくと、常温でもβ相が存在するようになります。
常温でα相の割合が100%近いものをα型合金、β相の割合が100%近いものをβ型合金、また両者が共存するものをα+β型合金など呼びます。
以下にそれぞれの合金の特徴を挙げます。
α型合金
- 高温強度・耐食性・耐熱性・クリープ特性などに優れる。
- ヤング率がβ型よりも高い
- 加工性が悪い
- ヤング率が低い
- 加工性に優れる
- 熱処理により高強度化できる
- α型とβ型の間の特性をもつ。添加する金属の比率により特徴が変わる。
α型合金は、高温でも低温でも安定した強度を持ち、耐食性が良いため、ロケットなどの燃料タンクや航空機エンジン、プロペラシャフトなどに用いられます。ロボットを過酷な環境下(高温や海水など)で動かす場合、有効な材料となるかもしれません。
β型合金
β型合金は、低ヤング率と高強度を生かして、ばねや釣具、メガネフレームなどに利用されます。あまり流通しておらず、加工業者でも手に入れるのが難しいようです。
α+β合金
α+β合金の代表的なものとしてTi-6Al-4V合金(通称64チタン)があります。これはヤング率、強度ともに非常にバランスの良い特性を持っており、流通量も多いです。航空機の構造材を始め、スペースシャトルや原子力産業、医療用の人工骨など、様々な分野で用いられます。
α、β、α+β合金は、おおよそ以下の表のようにα相とβ相の比率に従って特性が現れます。α,β安定化元素の割合をそれぞれ調整することで必要な特性を得ることができます。
これらの合金の特性とは違う、特殊な性質を持つ合金についても説明します。
Ni-Ti 合金(形状記憶合金)
形状記憶合金は、形を変えても一定温度以上になればもとの形に戻る金属です。
その中でも多く実用されているものがNi-Ti合金です。一定の温度(変態温度)より高温側ではオーステナイト相、低温側ではマルテンサイト相になっています。マルテンサイト相に一定以上の応力を加えると、除荷後にもひずみが残ります。しかしここで変態温度以上に温度を上げると、オーステナイト相になり、ひずみが解消されます。これを形状記憶効果と言います。
この変態温度以上では、応力を加えて通常の弾性域の10倍程度まで変形させても除荷すると元の形に戻ります。これを超弾性効果と言います。この時、応力に対して以下の図のように非線形的なひずみを示します。
この変態温度は、ニッケルとチタンの割合を変えることで変えることができるので、室温で変態温度以上になるようにすれば、室温で超弾性の性質を使うことができます。
Ni-Ti合金は、形状記憶効果を活かしたばねや内視鏡、超弾性効果を活かしたメガネフレームやアンテナ、歯科矯正などに用いられています。
超弾性を活かし、ロボットの指先などに使うこともできるかもしれません。
引用:(株)豊田中央研究所公開資料
ゴムメタル
ゴムメタルは豊田中央研究所により開発されたβ型チタン合金の一種で、Mg合金並の低ヤング率と塑性変形を始める応力が1GPa以上と高く、非常に弾性範囲が広い合金です。加工性や耐食性にも優れ、幅広く使用されています。
ゴムメタルは冷間加工しても全く加工硬化せず、延性も低下しません。熱処理された状態だとヤング率・強度ともに高いものとなるのですが、冷間加工を施すことにより、低ヤング率の超弾性特性が現れます。
ゴムメタルは、メガネのフレームを始め、歯科矯正、ネジ、ゴルフクラブなどに利用されています。
ロボットの代表的な使用例としては、早稲田大学のTWENDY-ONEがあります。関節部の受動柔軟機構にゴムメタルが使用されており、人間のような柔らかさを実現しています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrsj/31/4/31_31_347/_pdf
引用:(株)豊田中央研究所公開資料
以下にそれぞれの主要特性と、特徴を示します。
*弾性変形能:弾性変形範囲の伸びの割合
同じチタンからなる合金でも、このように性質が大きく異なることがあるので、チタン合金を応用する際には、それらの性質を知っておく必要があるでしょう。
チタンが金属材料として用いられるようになったのは比較的最近で、高価なためロボットであまり使われることはありませんが、今後これらの特性を生かしたロボットが登場してくるかもしれません。
以上、少々特殊な材料のお話でした。