こんにちは、トロボです。
今回は技術面ではなく社会面で記事を書いてみようと思います。
当社は事あるごとに「ロボット大国日本の牙城を守る」と宣言していますが、そもそも日本が本当にロボット大国なのか(だったのか)が気になり、ロボット系の2大カンファレンスであるICRAとIROSにおける主要国の論文採択数について調べてみました。
以下の図は、IEEE Xploreの1990年以降の公開データから、ICRAとIROSの予稿集に採録された論文の第一著者の所属機関が属する国を年ごとにカウントした結果です(見にくくてすみませんが、バーの一番下の水色部分が日本です)。
ICRAに関しては、米国中心だったものを途中日本が追い上げ、今は世界の多くの国が参加する大規模な国際会議になっていることが分かります(それでも米国は圧倒的に強いですが)。IROSは福田敏男先生(名古屋大学名誉教授;2020 IEEE President)が立ち上げられた会議なので最初から日本人が多く、しばらくは日本が最大の論文数を誇っていましたが、現在はICRA同様に世界的な会議になっています。ちなみに、福田先生は37歳の時、東京理科大の助教授時代に本会議を立ち上げられたとのことで、そのバイタリティたるやIEEEの会長まで上り詰めたのも頷けます。
ここで、各国のロボット研究の趨勢を見やすくするため、ICRAとIROSのデータを足し合わせてみます(下図)。
こうしてみても、2010年ごろまでの日本は経済規模が倍以上のアメリカと互角の論文数であり、かなり勢いがありました(論文の引用数などの重要性は加味していませんが)。研究という点に限ってですが、この時期までの日本はまぎれもなくロボット大国だったと言えます。
しかし、図を見て分かる通り、2010年以降は凋落してしまったと言わざるを得ません。衰退の一番の要因は人口のボリュームゾーンである団塊ジュニアが40歳前後からマネジメント層に移行してきたからと推察しますが、それにしても落ち幅が大きすぎます。他の要因として、大学では例えば、研究以外の業務負担の増加、雇用条件・仕事環境が民間と乖離(それによる離職)、ロボット分野の成熟に見合わない過小な研究費、英語教育の失敗、これらの理由で優秀な留学生が日本に来ない、等々が考えられるかもしれません。大企業においても、硬直化した組織における価値が不明確な業務や、コンプライアンスと称したモチベーションをくじく仕組みなどで、生産性の低下は同様かと思います。
いずれにしても、少子化が進み各人に能力を最大限発揮してもらわなくてはならない中で、それと逆行して大学や大企業が窮屈になりすぎているように思えます。そうすると、結論ありきに聞こえるかもしれませんが、大胆な資金配分と自由闊達な職場環境で若者の力を最大限引き出せるようなベンチャー企業に期待するしかありません(それで論文数が増えるかは別ですが…)。大学はシーズ技術の創出と0→1を立ち上げるためのインキュベータとして、大企業は資金とリソースを提供することに加えて出口の一つとしてベンチャー企業を支援してもらえれば、論文はともかくとして新技術開発に関しての生産性は維持できるのではないかと思います。
長くなりましたが、学術の世界ではもはや日本はロボット大国ではないと言わざるを得ません。それでも産業用ロボット(従来の教示ベースの多関節ロボット)では日本勢がシェアNo.1を誇っているようですが、協働ロボットやサービスロボットなどの新しいロボットでは出遅れている感が否めません。そこで、自由度が高く挑戦的なロボットベンチャーによって、地位が揺らぎつつあるロボット大国日本の牙城を守りましょう、という結論です。当社もその一助になればと思っていますので、引き続きご支援のほどお願いいたします。